• フリーランスは免税事業者か課税事業者の2つの立場が選べるが、課税事業者の選択を推奨する理由
公開:2023/01/20  更新:2023/01/10

フリーランスは免税事業者か課税事業者の2つの立場が選べるが、課税事業者の選択を推奨する理由

フリーランスを目指すのであれば、事業をどう拡大し、税制をどう捉えるかといった観点で、将来のビジョンを描いてみることが大切です。その際には「個人事業主は法人化への1歩目」「消費税は収入ではない、預り金である」という考え方に沿ってポイントを整理すれば、進むべき未来がクリアになるでしょう。この記事では、今後の導入が決まっているインボイス制度にも触れつつ、課税事業者となることのメリットについて解説します。

事業をどう拡大していくか、その青写真を描いてみることがフリーランスの第一歩

インボイス

特定の企業や団体には所属せず、個人事業主としてさまざまなクライアントの仕事を請け負うのがフリーランスの働き方です。組織に縛られることなく自由に業務を進めることができる自由さが魅力ですが、その分、事業の成果を含めてすべての責任を自らが背負わなくてはなりません。どのように事業を拡大していくのかも重要なテーマであり、将来的には従業員を雇用する規模にまで事業を成長させようと思うのであれば、フリーランスとしての個人事業主は法人化への1歩目であるという気概で、日々の業務にコツコツと取り組むことが大切になってくるでしょう。

フリーランスとは特定の組織と雇用契約を結ばない働き方を表していますので、厳密に言えば税法上の区分である個人事業主とはカテゴリが異なります。個人事業主とは、開業後1カ月以内に税務署に開業届を提出して認められた人のことです。個人事業主になると、青色申告制度が利用できるようになります。これは事業で得られた利益に対して一定の控除が適用されるほか、必要経費の面でも認められる項目が増えるといった節税のメリットを持つ申告制度です。そのため、個人の立場で仕事をするフリーランスだけでなく、開業届を提出して個人事業主となった上で事業を展開するフリーランスも数多く見受けられます。

さらに、フリーランスでありながら法人でもあるというケースも当然のことながら認められています。法人とは、法律によって人と同様の権利や義務を与えられた組織のことです。株式会社や合名会社、合同会社、NPO法人など様々な形態があり、このうち株式会社、合名会社、合同会社などは1名でも設立できます。法人になるには税務署と地方自治体に届出書を提出する必要があり、個人事業主と比較して手続きも煩雑になりますが、法人格を取得すると法人税が認められるようになって、最高でも税率が23.2パーセントに抑えることができます。これは個人事業主が所得税として最高45パーセントかかることに比べると、税制上のメリットは大いに感じられるでしょう。さらに、経費面でも個人事業主では認められる項目が自宅兼事務所の家賃やインターネットの通信費、水道光熱費などであるのに対して、法人ではさらに役員報酬や賞与などにも適用できるというメリットが加わります。

このように、フリーランスとしての立場は同じでも、個人と個人事業主、法人の場合では当然のことながら社会的な信用度も異なってきます。個人より個人事業主、個人事業主より法人といった具合に事業規模が大きくなればなるほど信用度は増していき、販路拡大や資金調達などといったさまざまな面で事業展開が有利になってきます。このような事業規模の拡大プロセスをたどることは、フリーランスとしての将来像をどう描くのかを決める上で一つの大きな指針となるでしょう。

課税事業者と免税事業者との違いとは?

フリーランスは事業規模をどう拡大していくか、その青写真を描くことが大切ですが、さらにフリーランスとして仕事をしていく上で見過ごせないポイントに「税制をどうとらえていくか」という問題があります。直面しているのは免税事業者の立場と取るか、あるいは課税事業者となるかといった二者択一です。両者の違いをわかりやすく把握するために、まず課税事業者とはどういうものかについて確認していきましょう。

課税事業者とはフリーランスも含め、消費税の納入義務を持つ法人や個人の事業主を言います。課税事業者に該当する要件は「基準期間内での課税売上高が1,000万円を超えていること」「特定の期間内での課税売上高および給与等支払額が1,000万円を超えていること」「開業から2年を超えていること。ただし2年以内でも資本金あるいは出資金額が1,000万円を超えていること」の3点です。ちなみに、基準期間とは前々年の1年間を言い、特定の期間とは前年上半期の半年間を指します。この3点のうち、一つでも該当する項目があれば課税事業者となり、消費税を納めなくてはなりません。そして、免税事業者とは開業してから2年以内、もしくは基準期間と特定期間の課税売上高がいずれも1,000万円以下の事業者を指します。

免税事業者になると消費税の納税義務を免れることができます。一方で、免税事業者が請求する分には課税分を上乗せして請求できます。つまり、売上に上乗せして預かった消費税はそのまま免税事業者の収入とすることができ、これは一般的に「益税」と言われています。フリーランスの立場で課税事業者か免税事業者のどちらかを選べと言われれば、課税事業者の要件を満たしていない限り、免税事業者になることを選ぶ方が圧倒的に多いでしょう。しかし、2023年を節目に課税事業者となることのメリットが断然クローズアップされると予想されています。

課税事業者となるメリットとは?

個人より個人事業主、個人事業主より法人へと事業の形態が進んでいくにしたがって社会的な信用度が増していくのと同様に、免税事業者であるよりも課税事業者となるほうが信用力はいっそう増大します。銀行の融資が比較的通りやすかったり、取引先の拡大が図りやすくなるのも課税事業者の信用力です。この点で、課税事業者である方が免税事業者でいるよりもメリットが大きいと言えるでしょう。

しかし、さらに重要なのは2023年の10月1日から開始される「インボイス制度」の影響です。なぜなら消費税の納付に関するこの新制度のスタートにより、免税事業者の益税は実質的に消滅する方向に向かっていくことになるからです。インボイス制度とは、2019年10月に導入された消費税増税に伴い、軽減税率の8パーセントと通常の10パーセントが並立する複数税率となったことで、取引内容に不透明な混乱が生じることを排除するために設計されたものです。この制度では、これまでのように仕入れ品名や金額を記載した請求書を保存する「請求書等保存方式」ではなく、適用税率や税額を明記した適格請求書(インボイス)を保存する「適格請求書等保存方式」が義務付けられるようになり、具体的には適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率、税率ごとに区分した消費税額など、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称などの記載が必要になってきます。

キーを握るのはこの「適格請求書」です。というのも、適格請求書がなければこれまでのように仕入税額控除が受けられなくなるからです。仕入税額控除とは、商品を購入する際に顧客が支払った消費税から、仕入れなどをする際に販売先に支払った消費税を差し引いて、その差額を納入する方法です。消費税とはモノやサービスの販売時に消費者が常に支払う税金ですので、店舗で売られる商品だけでなく、仕入れや輸送などにかかるすべての取引行為によって売買が成立した際には必ず支払いが生じることになります。つまり、商取引を証明する請求書さえあれば消費税はすべて支払われているという前提があるからこそ、仕入税額控除は成立しているのです。しかし、インボイス制度が導入されるようになると、適格請求書以外の請求書ではこの控除が使えなくなってしまいます。そうなると、適格請求書がなければ消費税を支払ったという証明にはなりません。インボイス制度では、この適格請求書を発行できるのは課税事業者だけに限られ、免税事業者は発行することができません。

こうなってくると免税事業者にとってはリスクです。付き合いのある取引先が契約の見直しを行ってくるかもしれません。なぜなら、発注先が免税事業者でいる限り仕入税額控除が受けられなくなり、結果的に発注先が支払うべき消費税分も含める形で税金の納付をしなくてはならなくなるからです。取引先にとってみれば、適格請求書を出せない発注先との取引は不利益を生じるだけでメリットはありません。取引の中止を申し渡されても仕方がないでしょう。もちろん免税事業者の特権を使って、今後も消費税を納付しないでそのまま利益にするという方法もあります。現金が手元に残ることになり、短期的には恩恵となるでしょう。しかし、取引先の拡大こそがフリーランスとして仕事を続けていく上での必要最低条件であることを考えると、目先の利益にこだわるのは得策とは言えません。ここは長期的な視野に立って「消費税は収入ではない、預り金である」というマインドにいかに早く転換できるかが、フリーランスとしての行く末を左右することになるでしょう。

中には「課税事業者になるためには条件があるのではないか」と思われている方もいるでしょう。その通りで、売上が1,000万円未満で開業2年以内の事業者は基本的に課税事業者になる要件を満たしていません。しかし、免税事業者であっても、課税事業者になって適格請求書を出せるようになる仕組みがあります。それが「適格請求書発行事業者登録申請」です。これは所定の申請書に必要事項を記入して所轄の税務署に提出するもので、インボイス制度がスタートする2023年の10月1日に間に合わせるためには同年3月31日までに登録を完了させておく必要があります。このような処置を行っておくことで、免税事業者のフリーランスであっても取引量の減少や、消費税分の値引き要求などのリスクを遠ざけることができるようになるでしょう。

さらに、このほかにもフリーランスが課税事業者になることを選択した方が賢明なケースというものがあります。それは消費税の還付が期待できる場合です。例えば、事業設立直後に初期費用がかさんだ際や高額な設備などを導入した際です。いずれも預かり分より支払い分の消費税の方が多額となるため、払い過ぎた分が還付されます。還付を受けられるのは課税事業主だけですので、その意味でもやはり課税事業者という選択はフリーランスにとってのベストチョイスと言えるでしょう。

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