何がフリーランスをトラブルから守るのか
従業員が雇い主である企業とトラブルになったとき、駆け込み場所となるのが労働基準監督署です。従業員の訴えを聞いた労働基準監督署は、問題の企業を調べて労働基準法を守られていないようであれば法を遵守するように指導を行います。指導を受けたにも関わらず企業が改善をしない場合は、罰則が科せられることもあります。それでは、フリーランスが企業とトラブルになったとき、労働基準監督署に駆け込めばよいのかというと、それはできません。その理由はフリーランスが企業と雇用関係を結んでおらず、労働基準法といった労働関係の法律が適用されないためです。
フリーランスが企業と結んでいるのは、業務委託契約です。業務委託契約とは、委託者(企業)が契約書で定めた業務を受託者(フリーランス)に委託するという内容です。厳密に言えば、法律には業務委託契約というものはなく案件の内容に従って、請負契約、委任契約(準委任契約)を結ぶことになります。これらの契約を結んだフリーランスが企業とトラブルになったとき、フリーランスを守る法律となるのが独占禁止法や下請法です。
独占禁止法といえば、一般的に市場の独占やカルテルを規制する法律として知られています。それがフリーランスと企業のトラブルになぜ関係するのかというと、鍵となるのは「優越的地位の濫用」の禁止です。「優越的地位の濫用」とは立場が強い者が、優越的地位を利用して取引の相手に不当に不利益を与えることを意味します。独占禁止法では、この「優越的地位の濫用」を禁じており、取引の一方が企業ではなくフリーランスでも対象です。独占禁止法に反する行為があったならば、公正取引員会の各地域にある事務所や支所の窓口に相談しましょう。
下請法は、独占禁止法を補完する形で制定された特別法です。業務委託契約を結んだ企業とフリーランスにおいても、フェアな取引ができるように様々なことを規制しています。例えば、フリーランスには落ち度がないのに成果物を企業が受け取ってくれないとか、報酬を勝手に減らされたなどの行為があれば下請法に基づき企業に対して勧告や指導が行われます。もし、企業が勧告や指導に従わないときには罰則も科せられることになるでしょう。下請法もまた、独占禁止法と同じく公正取引委員会が相談先となります。このようにフリーランスを守る下請法ですが、企業の資本金が1000万円未満であれば適用されないという点が問題です。トラブルとなったときには、企業の資本金を確認しましょう。
企業とトラブルになったときの対処法
フリーランスと企業とのトラブルは、基本的には当事者間の話し合いで解決を図ります。そこでトラブルの対処法を見ていくのですが、まず重要なのが独立意識です。会社に属している場合は、トラブルが起きても法務部などの担当部署に任せることができました。しかし、フリーランスというのは、基本的に一人で頑張る仕事です。当然ながら、企業とのトラブルも自力で解決しなければいけません。トラブルを前にして手をこまねいているだけであれば、話し合いや裁判で企業の主張が認められて不利益を被ることになるでしょう。フリーランスが、自分の利益を守りたいのであれば、自分で対処しなければいけないという気概と行動力が必要です。
フリーランスに必要な独立意識を持っていると確認できたら、次にトラブルの原因は何かを考えます。トラブルの原因は、企業側ではなくフリーランス側にあるかもしれないので、そこを曖昧のまま話を進めると新たなトラブルを招くことになるでしょう。原因の特定には、契約書や担当者と交わしたメールが役立ちます。契約書やメールには、納期や報酬額・支払日など取引で重要なことが記載されています。その内容と現状を照らし合わせることで、トラブルの原因がどちらにあるのかを明らかにできます。
フリーランス側の原因としては、納品物の不備や報酬の請求書を企業に渡していないといったことが挙げられます。フリーランス側に原因があると判明したら、企業に対して事実を隠さず伝えて、遅れてでも納品物を完成させて提出したり報酬の請求書を渡したりすれば、早期解決を図れるでしょう。企業側にトラブルの原因がある場合は、事務手続きのミスや地位を利用した不当な圧力などが挙げられます。簡単な事務手続きのミスなどであれば、その事実を担当者に連絡するだけで解決できます。担当者に連絡しても反応がないときには、万全を期すために担当者にとって直属の上司にあたる人や経理などの担当部署への連絡もしておくと良いでしょう。
企業側にトラブルの原因があり、簡単な事務的ミスなどではない場合にやるべきことは主張を聞くための話し合いです。その際、たとえ企業側に原因があることが明らかでも、感情的に相手を責め立てるような口調は避けましょう。そのようなことをすれば、企業側の態度が硬化して話し合いだけでは解決できなくなるかもしれません。自分の主張を明確に伝えたいとしても、それなりの礼節は必要です。
話し合いでは企業側の主張を確認しつつ、現状が契約不履行となっていることを指摘します。契約書の内容を速やかに履行してもらえるように働きかけましょう。場合によっては、妥協をすることも必要です。例えば、報酬の未払いが発生しているときに、企業側から全額を用意できるタイミングや現時点で支払いができる金額を聞き出せたとします。そこで企業側の事情を汲み柔軟な対応をすることが、トラブルを解決へと導きます。
話し合いをしても企業側にトラブルを解決する意思がないことが明らかなときや、話し合いをすることすら拒否しているときには、より明確な形で意思を伝える必要があります。それために送るものが、内容証明郵便です。内容証明郵便とは、いかなる内容の郵便物が相手に送られたのかを記録するサービスです。一般的に内容証明郵便は、法的措置をとる準備段階として、自らの主張を相手に伝えたという記録を残すために使われます。この場合、書類に記載するのは契約やトラブルの内容に加えて、解決に向けてして欲しい事などです。さらに、設定した期限までに反応がなければ法的手続きへと進むという文章を入れておくことで、企業にプレッシャーを与えることができます。
話し合いで解決できず、内容証明にも反応しないときには、法的手続きを始めましょう。法的手続きと言っても、最初から裁判を起こす必要はありません。金銭に関するトラブルならば支払督促という手続きがあり、企業の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申立をして異議がなければ、申立の内容通りに金銭の支払いをせよという書類が送付されます。企業が支払督促を無視すれば、裁判をせずとも強制執行が可能です。
法的手続きについては、企業から損害賠償請求などを起こされることもあります。内容証明郵便で法的手続きの予告をされた時点で不安を感じるでしょうが、内相証明郵便は郵便を出した記録が残るというものであり、それだけで企業の主張が認められたと思うのは間違いです。損害賠償請求が認められるには、フリーランス側に落ち度があったという証拠がなければいけません。契約通りに成果物を納品したのであれば、そのような証拠は出てこないはずなので怯えることなく対応しましょう。
支払督促では解決しそうもないときには、いよいよ裁判です。報酬を巡る争いで140万円を超えるものは地方裁判所に、140万円以下は簡易裁判所に訴えることができます。また争う金額が60万円未満ならば、少額訴訟で済ませることもできます。少額訴訟の審理は原則として1回だけですから、早期解決が可能です。なお、裁判で自らの主張を通し、相手の主張に反論するためには、証拠が必要です。事前に契約書や担当者と交わしたメールなど取引に関するものをまとめておきましょう。
今後の仕事に与える影響を考えて、法的手続きを避けたいというならば、和解あっせんという方法もあります。和解あっせんとは、厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営をしているフリーランス・トラブル110番のサービスです。10年以上の経験を持つベテラン弁護士が、和解あっせん人になりフリーランスと企業のトラブルを解決に導きます。弁護士の呼びかけにより実現した話し合いの場で、解決案が提示されるので両者が合意すれば解決です。
和解あっせんの話し合いは、2時間程度です。場合によっては何回も話し合いますが、解決までに費やす時間を節約できます。弁護士の提示する解決案は、法的拘束力を持っていないので、受けるかどうかを決めるのは当事者です。和解あっせんの内容は非公開で、裁判とは違いトラブルのことを周囲に知られる心配はありません。また、弁護士の力を借りるとすれば、料金が気になるところでしょうが、和解あっせんの利用は無料です。金銭的に余裕がないフリーランスでも、安心して頼れます。
トラブルの内容が、独占禁止法や下請法に違反している恐れがあるならば、所管する公正取引委員会に相談をして是正してもらうのが一番の対処法です。企業が法に反していれば、勧告や指導などを出してくれますし、それでも状況が変わらないときには企業に対して罰則が科せられます。公正取引委員会が扱うトラブルについては、企業の所在地を管轄する事務局や事務所の担当窓口へ電話をすれば相談ができます。窓口を訪問する場合は混み合っていることもあるので、事前に電話で予約を入れておく方が良いでしょう。
トラブルに備えて保険に加入する
フリーランスと企業のトラブルは、当事者同士の話し合いで解決できないこともあります。そういうときに頼れるのが、交渉力があり独占禁止法や下請法を熟知している弁護士です。しかし、フリーランスは、企業よりも資金力に劣る事が多く、弁護士を雇うことは簡単なことではありません。そこで、備えとして加入しておきたいのがトラブルが起きたときに弁護士費用を補償してくれる保険です。フリーランス向けの弁護士費用保険があれば、保険金で弁護士を雇うことができ、交渉や裁判でフリーランス側の主張を代弁してくれる代理になってくれます。弁護士が雇えずに、企業側の言いなりになることはなくなるでしょう。