• 年金どうする?個人事業主と会社員で異なる年金の負担
公開:2022/04/18  更新:2022/04/11

年金どうする?個人事業主と会社員で異なる年金の負担

個人事業主として活動するうえで、気になるのが年金の問題ではないでしょうか。特に、会社員を退職してフリーランスになる場合、それまでとは加入する年金制度や年金の負担額が大きく変わってきます。年金負担は、個人事業主と会社員でどちらのほうが重いのかについて検証してみましょう。

加入する年金制度が違う!会社員と個人事業主の年金事情

加入する年金について

日本に在住する20歳以上の日本国民は、会社員か個人事業主かに関わらず、国の年金制度に加入するのが義務です。ただ、会社員と個人事業主では、年金に加入する過程に違いがあります。会社員の場合、年金の加入手続きは、ほぼすべて会社を通して行うため、年金加入者本人が役所窓口などで何か特別な手続きをする必要はありません。一方、個人事業主は年金加入の手続きを自分で行う必要があります。特に、会社員を退職して個人事業主になった場合は、原則退職した日から14日以内に住民票の届けがある自治体で加入手続きをしなければなりません。

また、手続き的な違いだけではなく、会社員と個人事業主では加入する年金の種類も異なります。会社員が加入する年金は、厚生年金と呼ばれる年金です。一方、個人事業主は国民年金という年金制度に加入します。

厚生年金と国民年金

厚生年金と国民年金は、いずれも国が制定する公的年金制度です。厚生年金は、一般労働者が加入できる日本初の年金制度で、発足したのは1941年のこと。現代において年金は、国民の福利厚生の一種です。しかし、戦時下にあった当時は保険料を徴収することで戦費を調達する目的が主でした。戦後になって、厚生年金は保険制度として全面改正され、会社員が老齢によって働けなくなった場合や、病気やケガで障害が残ったりした場合の救済制度として、現代まで引き継がれていくことになります。

ただし、厚生年金は主に会社員や公務員、また一定の収入を得ているパートやアルバイトしか加入することのできない年金制度です。そのため、厚生年金だけでは、国の社会保障制度から漏れる人が出てきてしまうことになります。つまり、会社に属していない個人事業主などは、厚生年金に加入できないので、それだけでは国の社会保障制度の恩恵にあやかれません。そこで、1961年にすべての国民を対象にした保険制度が発足することになります。それが、国民年金です。個人事業主だけではなく、学生や専業主婦も加入が義務付けられる国民皆年金が取られています。

会社員は厚生年金と国民年金両方に加入

会社員が加入する年金制度は、主に厚生年金です。しかし、国民年金は20~60歳未満の日本在住の日本国民すべてに加入の義務があります。そのため、厚生年金に加入している会社員も原則として国民年金に加入しなければなりません。つまり、会社員は厚生年金と国民年金の両方に加入していることになるのです。こうした事情から、厚生年金は2段階部分の年金と呼ばれます。

厚生年金に加入している会社員は、保険料を会社と折半で支払うことになりますが、その保険料には国民年金の保険料と厚生年金の保険料の両方が含まれています。もちろん、厚生年金に加入している場合、保険料を納付するのは被保険者本人ではなく会社側です。そのため、会社員自身には両方の保険料を支払っている認識はあまりないのかもしれません。

個人事業主は国民年金に加入

厚生年金は、会社員や公務員向けの年金制度のため、個人事業主は基本的に加入することができません。しかし、日本は国民皆年金制度を取っているため、会社勤めしていない個人事業主も国民年金には加入する義務があります。国民年金を基礎年金として、後は任意で他の年金にも加入するかどうかを決めていくことになります。個人事業主の中には、将来的な受給額を増やすため、国民年金以外にも「国民年金基金」や「個人型確定拠出年金」といった年金制度に加入する人も少なくありません。もちろん、そうした年金制度に加入すれば、年金の負担額自体は増大することになります。

会社員と個人事業主では年金の負担額がどう変わる?

厚生年金と国民年金は、対象となる被保険者の資格が異なるだけではなく、被保険者が支払う保険料の負担額も大きく変わってきます。まず、厚生年金の保険料は所得によって決まる一方、国民年金の保険料は所得に関わらず一律です。また、厚生年金が事業主と折半で支払うのに対し、国民年金は加入者自身が全額負担する点も異なります。それでは、会社員と個人事業主では、年金の負担額が具体的にどの程度変わってくるのでしょうか。

厚生年金保険料の負担額

厚生年金の負担

厚生年金の保険料は、月に受け取る給与や賞与に倍率をかけて計算されます。この給与や賞与にかけられる倍率を保険料率といい、厚生年金の保険料率は2004年から段階的に引き上げられていました。しかし、2017年に最終的な引き上げが終了し、それ以降は2022年現在まで厚生年金の保険料率は18.3%という数値で固定されています。この18.3%という保険料率が、給与や賞与にかけられて毎月の保険料が決定される仕組みです。
また、厚生年金で保険料率がかけられるのは、実際に受け取った給与の金額ではなく標準報酬月額となります。標準報酬月額とは、被保険者が受け取る給与を一定の幅で区切って分類した金額のことです。分類は、全部で32等級まであり、受給された給与金額に応じて振り分けられます。例えば、月給が30万円の人は19等級、50万円の人は27等級といった具合です。この制度では、月給が31万円の人も30万円の人と同じ19等級に分類され、受け取る給与金額には1万円の差がありますが、支払う保険料は同じ金額となります。

それでは、実際に厚生年金に加入している会社員が負担する1カ月の年金保険料はいくらになるのでしょうか。標準月額報酬が30万円だったとして計算してみましょう。この場合の年金保険料は、30万円×18.3%で5万4,900円と計算されます。しかし、厚生年金の場合は会社側と保険料を折半して支払うため、実際に給料から天引きされる保険料は5万4,900円の半分の2万7,450円です。残り半分は、会社側が負担してくれるので、標準月額報酬30万円の会社員が実際に負担する年金保険料は1カ月2万7,450円となります。

国民年金保険料の負担額

厚生年金は、報酬月額に対して保険料が決まるため、高い収入を得ているほど年金保険料の負担額も増大します。一方、国民年金の保険料は被保険者の所得に関わらず一律です。そのため、個人事業主の場合は収入が高いほど年金保険料の負担の割合自体は軽くなり、逆に収入が低ければ所得との割合で見た場合の年金負担は大きくなります。

ただし、国民年金の保険料は毎年度ごとに改定されるため、注意しましょう。なぜなら、物価や賃金が常に変動しており、保険料にもその変動分を反映させているからです。例えば、2018年度(2018年4月~2019年3月)の国民年金保険料は1カ月1万6,340円でしたが、2021年度(2021年4月~2022年3月)では1カ月1万6,610円となっています。このように、改定といっても数百円単位なので、そこまで気にする必要はないかもしれません。

扶養家族がいるかどうかで負担額は変わる?

厚生年金と国民年金には、扶養の概念にも大きな違いがあります。厚生年金の場合、年収130万円未満の配偶者がいて、その配偶者が夫または妻に扶養されている場合、配偶者は個別に年金制度に加入する必要はありません。この場合、厚生年金の扶養制度によって、被扶養者の保険料は扶養者の保険料に含まれる形になるため、年金保険料の負担額は同じです。

一方、国民年金には扶養の概念がないため、配偶者も国民年金に加入しなければなりません。もちろん、国民年金の保険料は収入に関わらず一律となるので、配偶者も同じ金額の保険料を負担する必要があります。配偶者が専業主婦などの場合は、個人事業主となった夫が実質的に2人分の年金保険料を負担する形となるため、年金の負担は大きくなるといえるでしょう。

独立したら年金や開業の手続きをしよう!

開業届の提出は必須です

新型コロナウイルスの感染拡大以降、リモートワークや在宅ワークという働き方が一般的になってきました。リモートワークや在宅ワークの場合も、雇用形態によって国民年金や厚生年金に加入が必要です。社員として会社に所属している場合、働き方がリモートワークや在宅ワークであっても、基本的に問題なく年金をはじめとした社会保障制度の対象となるでしょう。ただし、個人事業主として活動する場合や、業務委託という形での在宅ワークの場合は、会社員に対する社会保障制度の対象外です。そのため、年金制度の加入や支払い手続きは、すべて自分で行わなければなりません。

個人事業主になったら国民年金に切り替える

会社に属さない個人事業主や業務委託系の在宅ワーカーは、独立して生計を立てていることになります。企業へ就職せず、最初から個人事業主として活動している人や、会社員を退職して独立した人など、個人事業主としての形は人それぞれです。しかし、いかなる形で活動するにしても、独立して生計を立てている人が最初に行うべきことは、まず国民健康保険や国民年金への加入手続きとなります。特に、会社から独立して個人事業主になった場合、厚生年金から国民年金への切り替え手続きを行わなければなりません。

厚生年金を離脱する手続きは、会社側で行ってもらえますが、国民年金への加入手続きは本人または世帯主が行うことが必要です。厚生年金から国民年金への切り替えは、「原則退職日の翌日から14日以内に行う」と定められています。期限を過ぎても罰則はありませんが、空白期間ができてしまい将来的に受け取れる年金の受給額が減ってしまうこともあるので、退職したら忘れずに切り替え手続きをしましょう。

年金の切り替えだけではない!開業届や青色申告承認申請書

個人事業主や在宅ワーカーとして本格的に活動する場合は、税務署に対して開業届を提出するのが一般的です。もちろん、開業届を提出しなくても個人事業主として活動することはできますし、提出する義務もありません。しかし、開業届を出しておくと税金面で有利になるメリットなどがあります。開業届を提出している個人事業主は、確定申告の際により節税効果が高いといわれる青色申告での申告が選択可能です。

青色申告であれば、条件を満たせば最大65万円の特別控除を受けられるため、納める税金を少しでも節約したい場合は、開業届を提出しておきましょう。また、青色申告で確定申告するためには、開業届だけでなく青色申告承認申請書の提出も必要です。ただし、青色申告承認申請書は、原則として事業開始日から2カ月以内に提出しなければなりません。青色申告承認申請書を出さない場合は、自動的に節税効果の低い白色申告となってしまいます。独立したら開業届と一緒に、青色申告承認申請書もしっかりと作成して忘れず提出しましょう。

国民年金を払わなかったらどうなる?

国民年金は、20~60歳未満の日本在住国民が支払う義務のある社会保険です。そのため、加入したくない場合でも保険料を支払わなければなりません。万が一、支払いを滞納したらどうなるのでしょうか。その場合、まず日本年金機構から支払いの督促状が届きます。年金の保険料にも支払い期限があるため、期限が過ぎた保険料に関しては別途延滞金が発生し、通常より多くの保険料を納めなければなりません。それでも滞納した場合は、最終的に財産を差し押さえられ、強制的に徴収されるケースもあります。

もちろん、保険料を支払わないままでは、将来受け取れる年金が減額されてしまう点もデメリットです。また、事故などで障害を負った場合、年金をきちんと支払っていれば障害基礎年金を申請することができます。しかし、初診日の前日時点で直近の1年間で未納がある場合は、受給要件を満たせません。年金の支払いは、国民の義務でもあるため、万が一を考えるうえでも忘れずに支払うようにしましょう。

国民年金には納付の免除制度や猶予制度がある

個人事業主として駆け出しのころは、事業がなかなか安定せず、収入が伸び悩むことも珍しくありません。もし、経済的理由で年金保険料の支払いが難しい場合は、免除制度や納付猶予制度を利用するのがおすすめです。日本年金機構が定める条件に合致すれば、納付すべき保険料が免除されることがあります。免除される金額は、「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4種類です。場合によっては、全額免除になるケースもあるので、経済的に厳しい場合は滞納せずに制度を利用できないかどうか検討してみましょう。

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